死命

薬丸岳著 2012年文藝春秋刊行
癌に侵されそれぞれ余命幾ばくもない刑事と犯罪者。
それぞれが自分の死を意識して自分がしたいこと、しなければならないことを意識する。
刑事の方は納得するし、応援するし、家族との関わりに涙を溢しそうになるけど、
犯罪者の方は全然面白くない。
犯罪者の少年時代にトラウマがあるような設定だけど、
それがこの犯罪者の今の行動にどう結びついているのか、
何を解放しようとしているのかさっぱり分からない。

人を愛した人間は、その人と二度と会えなくなることを怖いと思い、自分にとって素晴らしい場所を見つけた人間は、その存在が消えてなくなってしまうことを怖く思うのではないか。

刑事には死後の世界で妻に会えることを願う。

そして、罪を犯した人間は、これから自分の知らない世界に放り出されて、何かの報いを受けるのではないかということに怯える。
きっと、死そのものが怖いのではない。
すべては、死ぬ寸前まで、自分の人生という鏡を見せつけられることが怖いのだ。

犯罪者には死後の世界で恋人に詰られることを願う。
『死命』というタイトルからは「生か死か」という切迫感ある物語や
「命を賭した使命」という物語をイメージしたけど、ちょっと違ったようだ。

死命 (文春文庫)

死命 (文春文庫)

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