晩鐘(下)〈新装版〉

乃南アサ著 2015年双葉文庫刊行
中巻の続き。2005年文庫版で刊行された同名作品の新装版。
読み応えのあるとても良い作品だと思った。
どんなに長い年月が経っても忘れられないものは忘れられない。
しかしそれでは前に進めないので徐々に新しい思い出を蓄積するしかないのかなと思う。
上書きしたり、忘れる必要はなく、あくまでも新規に蓄積していくのが良いと思っている。
そのためには信頼する人が側にいるのが必要であり、
真裕子には建部という恨み、憎しみ、怒りなどの爆発的感情を受け入れてくれる頼りになる存在があった。
もっと必要だった大輔には香織が側にいたのだが、香織は感情を受け入れてくれなかった。
(香織自体は側にいる男次第で前に進んだり後退したりという感じか。)
絵里には感情を受け入れてくれる大輔がいたが側にいてくれなかった。
大輔、絵里がとても可愛そうだった。
香織の

実は香織は、夫が罪が犯したことによって、自分でも予測しなかった運命を、自分の力で歩み始めているのだ。
自らの可能性に気づき、まるで別人のような要素を引き出し、異なる顔を持って。
言葉では、辛い、苦しい、悲しいなどと連発していたとしても、香織は明らかに生き生きしていると思う。
彼女は自分の生を謳歌している。ありとあらゆる欲望を増殖させ、本能を研ぎ澄まし、見事なほどに自己中心的に生きている。

というところは素直に素晴らしいと思う。
上中下巻のとても長い作品だったけど、とても良かった。

晩鐘(下) (双葉文庫)

晩鐘(下) (双葉文庫)

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