絶唱

湊かなえ著 2015年新潮社刊行 初出「Story Seller」「小説新潮」など

「楽園」は『Story Seller3』、「約束」は『Story Seller annex』で読んでいる。
トンガでゲストハウスを経営している尚子さんのところへ集まるワケありの旅人の話がメインかと思っていたら、最後の「絶唱」で実は全体を通して阪神淡路大震災を経験し、それぞれの変化した心の内、環境、境遇などに着目した連作短編ということが分かり、いろいろと思いが交錯した構成なんだろうなと感心した。発行日が2015年1月17日だし。(ちょうど20年とのこと。)
湊かなえの経歴を見ると、兵庫県の大学を卒業し、トンガへ青年海外協力隊として赴任しているようだし、「絶唱」は湊かなえの経験、思いを描いているのかなと思った。

安定してベストセラーを出せるようになりましたね。
ずっと提案したかったことがあります。
震災のことを書いてみたらどうかしら。
今はもう、ベストセラーを出すために震災をネタにするなんて、
と自己嫌悪に陥ることもないんじゃない?

内側も外側も境界線も意味をなさない、
安全なところにいたわたしはやはり微力で、
多くの人の役に立てるようなことは何もできなかったけれど、
大切な人のもとにかけつけて、
十六年前にその人がしてくれたように、
何も言わずに傘を差し出すことができました。

というところがとても印象的。
自分自身も2011年の地震宮城県で経験したけど、自分なんかよりももっとヒドいことになっていた沿岸部のことを思うと、全然大したことなかったわけで、もっといろいろなことをしなければいけなかったのに...という後悔ばかりを感じている。今後、このようなことがないことが一番だけど、もしあったならば微力であるが力になれるようにならないと改めて思った。そんなことを思い出させてくれる物語だった。

絶唱

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